今年はいろいろな山菜の観察や食すことを愉しんでいますが、気をつけなければならないのことがあります。それは、有毒植物です。
有毒植物と言えば、日本三大有毒植物のトリカブト、ドクゼリ、ドクウツギが有名ですが、ハシリドコロもそこそこ有名な有毒植物。
林床から新芽を出したハシリドコロ
ハシリドコロは、山地の沢沿いの湿った木陰や崩壊地などにも群生する多年草で、飯能市近辺では3月下旬から4月上旬、木々が芽吹く前に林床から新芽を出します。
ハシリドコロは漢字で走野老と書き、英名をJapanese Belladonnaと言います。
Belladonnaはハシリドコロの近縁種で、ヨーロッパで有名な薬草であるセイヨウハシリドコロのこと。「bella donna」はイタリア語で「美しい 女性」を意味します。
果実のエキスには瞳孔を拡散する作用があるので、昔、ヨーロッパの貴婦人がセイヨウハシリドコロの目薬をさし、ぱっちりお目々で夜会へ出かけていたそうです。それが「美しい 女性」の由来です。
ハシリドコロは4月から5月に開花する
左がハシリドコロで右がフキ(ふきのとう)
お手伝いした『小学館の図鑑 NEO危険生物』(小学館)で、ハシリドコロの芽吹きがフキ(ふきのとう)と似ていて、よく間違われると掲載してありますが、正直、ぜんぜん似てないのに、なぜ? と思っていました……が、調べてみると毎年のように中毒事故が起きていてびっくりした記憶があります。
今年はハシリドコロの芽吹きをしっかり観察してみようと3月中旬から生育地に通い、先日、ようやくフキに似ているかな〜という状態を撮影することができました。確かに、くわしく知らない人は、フキと勘違いして誤認してしまうかもね。
ハシリドコロの根茎。全草に毒があるが特に根茎に猛毒を含む
ハシリドコロは全草に毒があり、誤食するとめまいや嘔吐、けいれんや昏睡、呼吸停止などの症状を生じ、大変危険です。特に根茎が猛毒で、太い根茎がオニドコロ(鬼野老)に似ていて、食べてしまうと“走りまわるほど苦しむ”ことから、ハシリドコロ(走野老)の名の由来になっています。
ただし、ハシリドコロの根茎を乾燥したものはロート根と呼び、日本薬局方のロートエキス、または硫酸アトロピンの原料になります。点眼薬や胃腸薬、鎮痛薬やパーキンソン症候群の治療薬、全身麻酔の際の前投薬などに利用されます。
“良薬は口に苦し”と言うけれど、有名な有毒植物のほとんどは薬草になっているのもうなずけます。まぁハシリドコロは、口に苦し程度では済まない猛毒ですが。
分 類 / ブナ目 ナス科 ハシリドコロ属
和 名 / ハシリドコロ
学 名 / Scopolia japonica
花 期 / 4-5月
生活型 / 多年草
分 布 / 本州〜九州
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