ムササビを観察していると、思いがけない植物の存在を知る機会があります。その代表が、山地にある常緑樹林の樹上や岩の上に着生するランのひとつ“セッコク”です。
花期には、白い花のかたまりが樹上でよく目立つセッコクですが、それ以外の時期には目立たないので、意識して探さないとその存在に気づくことはありません。
スギの樹上で花を咲かせたセッコク
そんなセッコクですが、ムササビの生息環境を調べていると、突然その存在を知ることがあります。
ムササビは樹上生活者で、めったにというか、何か特別な理由がない限り地上に降りてくることはありません。そのため、もっぱら樹上で植物の葉や実、つぼみなどを食べています。
樹上をヒョイヒョイかけめぐるムササビ
ムササビは食事中、食べたものを全部たいらげずに、途中でポイッと樹上から地上に落とします。なので、ムササビが食事をしていた木の下には、たくさんの「しわざ(食痕)」が落ちています。
ムササビのセッコク食痕
スギの球果やカシ類の葉、どんぐりやつぼみなど……そんなムササビの食痕を観てまわると、しわざの中にセッコクの特徴的な多肉質の茎(水分を空気中から茎の内部に蓄える)が見つかったりします。
そこではじめて、
「セッコクがあるんだ〜」
と、気づくのです。
なので、埼玉県内でセッコクが生育するポイントをいくつか知っていますが、そのほとんどを、ムササビに教えてくもらったと言っても過言ではありません。
セッコクの白い花と淡紅色の花
セッコクの花は甘い香りがする
ムササビが教えてくれた樹上に生育する植物は、セッコクだけではありません。
ムササビのマツグミ食痕
最近ムササビに教えてもらった植物が、マツ科植物に半寄生して、夏にオーストラリアのカンガルポーに似た花を咲かせるマツグミ。きっと、鳥媒花なんだろうね。
長年マツグミの花を観察してみたかったので、今年の夏はムササビのおかげで念願がかないそうかしら。
分 類 / キジカクシ目 ラン科 セッコク属
和 名 / セッコク(石斛)
学 名 / Dendrobium moniliforme
花 期 / 5-6月
生活型 / 多年草(着生植物)
分 布 / 本州〜沖縄
分 類 / ビャクダン目 オオバヤドリギ科 マツグミ属
和 名 / マツグミ(松茱萸)
学 名 / Taxillus kaempferi
花 期 / 7-8月
生活型 / 常緑小低木(半寄生植物)
分 布 / 本州(関東地方以西)〜沖縄
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