夏から晩秋にかけて、植物の生態って面白い! と改めて教えてくれるツリフネソウ。
飯能ではスギの植林地脇にある、やや暗い湿った沢ぞいで群落が見つかります。
沢ぞいで群落をつくるツリフネソウ
ツリフネソウは、マルハナバチ類に適応した花をつける、典型的な「マルハナバチ媒花」のひとつです。またツリフネソウは、花を終えると、熟した果実が破裂して種子を飛ばす「自動散布植物」でもあります。
ツリフネソウの花を横から見たところ
名を漢字で「釣船草」と書くように、小舟を吊り下げたような不思議な形態の花が、とても魅力的です。
ツリフネソウの花弁は3個あり、上部の1個は小さく、下部の2個は合着した唇弁です。花は袋状になっていて、後方に長く伸びた距はぜんまいのようにクルリと巻き、そこに蜜が貯まります。
ツリフネソウの花の断面
そんなツリフネソウの花の中を見ると、雄しべ5個の葯が合わさり、雌しべを包んでいます。そして、蜜の貯まった距の先までしっかり袋状になっています。
ツリフネソウに訪花するマルハナバチ類
ツリフネソウを観察していると、ひっきりなしにマルハナバチ類が訪花します。
マルハナバチ類は、花にぶら下がったり、潜り込んだりと、アクロバティックな動きが得意はハチです。そのため、吊り下げタイプの花など、特殊な形態をした花の多くは、マルハナバチ媒花だったりします。
長い口器をもつマルハナバチ類。背面にツリフネソウの白い花粉がついている
マルハナバチ類はツリフネソウの花に潜り込むと、その長い口器を距の奥にある蜜へ伸ばして吸います。その際に、ツリフネソウはマルハナバチ類の背面に花粉をつけるのです。
マルハナバチ類は、同じ花を選んで巡回する性質があります。そのため、ツリフネソウにとって確実に花粉を運んでくれる、良きパートナーなのです。
ちなみに、このマルハナバチ類は、日本のお花畑が持続するために、無くてはならない生きものと言っても過言ではありません。感謝感謝。
ツリフネソウの熟した果実
マルハナバチ類などのはたらきによって、ツリフネソウには無事に果実が成りました。ツリフネソウは果実になってからも、目が離せません。
熟した果実は、水分をふくんでパンパンに膨れ上がります。果皮の外層はどんどん伸び続けることで、果実には内側に巻き込もうとする力が加わります。
それが限界に達したときに、ツリフネソウの果実は「パチン!」と音を立てて破裂します。その時に、果実の中にある2〜3個の種子は、勢いよく飛ばされるのです。
ツリフネソウの弾けた果実と種子。「自動散布」の代表種
ツリフネソウの果実が破裂するスロー映像
iPhoneで果実が破裂する瞬間をスローモードで撮影してみても、早すぎて、しっかりとらえることができません。
ちなみに、この映像で撮影した種子は、50cmほどの距離を飛びました。
ツリフネソウの花言葉は「わたしに触れないで」です。また、ツリフネソウの属名インパチェンス(Impatiens)は「耐えきれない」などの意味がありますが、それって果実が耐えきれずに破裂するからなのかしら。
何はともあれ、夏から晩秋にかけて、植物の生態を存分に楽しませてくれるツリフネソウは、ワクワクさせてくれる植物のひとつです。
(pöllö=ポッロ)
分 類 / フウロソウ目 ツリフネソウ科 ツリフネソウ属
和 名 / ツリフネソウ(釣船草)
学 名 / Impatiens textorii
花 期 / 8-10月
生活型 / 一年草
分 布 / 北海道〜九州
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